第二回女王杯SSQM に キマした。

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2022年3月19日、土曜日。冬も過ぎ去り、春の温かさを感じ始めたこの頃。世間は来る三連休の初日に胸を躍らせていた。あなたはこの日、何をして過ごしていましたか?

 

人々が思い思い週末を過ごしているその時、日本の中心部・東京都池袋区の地下では、男21人が集い会場を沸かせていた。女王の首を獲る為に──



 

 

 

「ありがとうじいちゃん、行ってくるよ」

 

無造作に立てられた線香。その後ろに据わる遺影は、釣り船で捕った大きな鯛を抱えながら、穏やかに笑っている。

 

俺が朝から仏壇に語りかけたのは、何も祖父思いのじいちゃんっ子だからというわけではない。こうやって挨拶するのだって、何か月ぶりだろう。

 

今日俺が女王杯に出られるのは他でもない、死んだじいちゃんのおかげなのだ。



香川県での5年間の生活を終えた俺は今、地元の東京に帰ってきて、バイトをしながら日々プログラミングの勉強に励んでいる。バイトがある日は朝起きて出勤し、ない日は昼まで寝ておやつの時間に学校へと向かう。社会人の年齢にして大学生のような生活だ。

疑似体験とはいえ、やっぱり大学生活は楽しい。好きなことを好きなだけ勉強して、余った時間を趣味に費やす。いつまでもこんな日々が続いてほしいものだ。

しかし、自由な大学生活であっても意外と土日は忙しいもの。そう、バイトがあるのだ。三連休で繁盛する土曜に休みを取ろうなんて、考えもしない。はずだったのだが。




「え?お墓参り?」

「おう。土日どっか空けといてね」

 

コーヒーを片手に父が言う。

 

「いいけど……」

 

──この前行ったばっかりじゃない?

 

親戚が少ない俺は、今まで冠婚葬祭と無縁な生活を送ってきた。親戚が少なければ、死ぬ親族も少ない。一年前にじいちゃんが死ぬまでは、法事やお盆など全て他人事だった。だからじいちゃんの葬式でも、焼香の作法なんて分かるはずもなく、周りの見よう見まねでとりあえず鈴を鳴らして頭を下げた。



もちろん墓参りなんて習慣もなく、俺にとっては新しい経験だ。だからどのくらいの頻度で行くのが良いかなんて分からないけれども、それにしても……一、二か月前に行ったんだから、別にいいんじゃないのか?

 

まあ別に、墓参りが面倒で嫌というわけではないし、毎日頑張って勉強しながらバイトしてるんだから、一日くらい土日休みをもらってもバチは当たらないだろう。バイト中にじいちゃんの声が聞こえてもイヤだし。

 

こうして俺は初めての土曜休みを取った。3月12日──第二回女王杯SSQM一週間前の土曜日の。




その前日、3月11日金曜日。朝起きてバイトに行き、バイトが終われば新宿まで向かって夜まで勉強。帰りは10時過ぎ、そんな毎日だ。プログラミングで頭がいっぱいで、墓参りのことなどすっかり忘れていた。

 

そんなとき、ふと思いもよらない知らせを受け取る。

 

 

 

スマホを片手に、目を見開いた。少しの間、その場に立ち止まってしまっていたかもしれない。SSQMの大会だと。まさか。四国で、俺がどれほどこのゲームに熱狂したものか。

 

しかしその興奮も、すぐ冷めて悲しみに代わることになる。大会の開催日が来週の土曜日だというのだ。取った休みは明日の土曜日なのに。

 

ちくしょう。明日俺は、二年ぶりのSSQM大会にも出られないという悔しさを背負いながら墓参りをするのか。せっかく俺が東京に帰ってきて、同じ都内で開催されるというのに。

悲しみに暮れながらも、バイト先に出勤。

 

「おはようごザまーす。」

 

事務所に入り、いつも通りスケジュールを確認する。あーあ、明日休みでも仕方ないのになあ。じーちゃんには悪いけど。

 

あれっ



「店長……明日俺出勤になってないスか?」

「え?……うわ本当だ、ごめんね。どうしよう、困ったなあ~…」

 

店長は仕事がデキる男なので、こんなミスをするなんて思いもしなかった。呆然とする俺に、突然雷に打たれたように名案が舞い降りる。

 

「大丈夫です店長、明日は忙しいでしょうし出勤します!その代わり、」



来週の土曜日はお願いしますね。




……3月19日土曜日に、俺が第二回女王杯SSQMに参加できたのは、じいちゃんのおかげだ。SSQMの大会の突然の知らせに、墓参りに、店長のミス。こんなに偶然が重なることってあるのだろうか。

 

「ありがとうじいちゃん、行ってくるよ」

 

線香を焚き、とりあえず鈴を鳴らして玄関へと走る。

 

 

 SSQMとの
 出会い

 

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思い返せば、SSQMとの出会いは1年前だった。

 

スマブラへの情熱をすっかり失った俺は、どこか漠然とした毎日を過ごしていた。ゲームが上達すればするほど、あれほど夢中だったSPの嫌な所が見え始める。しかし、それでもMr.ゲーム&ウォッチが好きで動かしたい。その思いだけでなんとか戦う日々。

 

そんな悶々とした退屈な日々を一変させたのが、SSQMだ。このゲームに出会ったその日から一目惚れ、友人3人で正月から熱狂してコタツで一夜を明かした。その後もうちで友人と集まるときは、必ずこのゲームをやった。それくらいSSQMに熱中した。






そのコタツにいた友人のうち一人も、俺と同じ鬱積を抱え込んでいたようだ。スマブラやプラットフォームファイターは大好きだが、どうもSPは愛せない。オフ対戦会に参加こそするが、何を欲して行っているのかはハッキリしない。そんなどっちつかずな彼も俺も、スマブラ界隈からすれば「はみ出し者」だった。

 

だからこそ、はみ出し者同士ともにSSQMに惹き込まれた。憑りつかれた。俺たちが心のどこかで求め続けていたスマブラが、そこにあった。



しかし、そんな彼とも、事あって今では絶縁状態。他の友達や対戦仲間も、みんな四国に置いてきてしまった。20代後半、予期せぬ出来事によってこの身一つ東京に独り。俺が四国から持って帰ってきたもの、四国にいた形跡は今やこのSSQMだけだ。





この背景から、「東京でSSQMの大会が開かれる」と知ったときの俺の興奮っぷりは想像してもらえるだろう。四国での思い出が頭の中に一気に蘇った。そんな心待ちにしたSSQM大会だが、歓喜の気持ちと裏腹に、どこか素直に喜べない自分がいた。自分の中で、どこから来たのかわからない、あるモヤモヤとした疑心が湧き出す。

 

俺が本当に好きだったのは、SSQMというゲームだったのだろうか。

それとも、いつもの部屋で楽しくゲームをしながら、皆で囲んだコタツだったのだろうか……



あのゲームは、あいつらとやってたから楽しかっただけなのだろうか。「オフ大会に参加して初対面の人とやったら、案外面白くなくて冷めてしまった」「またSPのように、一度夢中になれたものを一つ失ってしまった」なんて結末になってしまわないだろうか。

 

この葛藤がくだらない杞憂に過ぎなかったと知るのは、そう遠くなかった。



 

 出発

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外に一歩出ると、春がそこまで来ているのを感じた。空は青く、雲も少ない。上着だって一応厚着を持ってきたけれども、一応羽織っている程度だ。こんな絵に描いたような晴れやかな土曜日の朝に、俺は──

 

、、「スマブラのオフに行く」……?

 

玄関から出てもピンと来なかったのを、何故か今でも覚えている。俺は今からどこに行って、誰と何をするんだろう。いや、わかっている。ゲームをしに行くのはもちろんそうなのだが……誰と?そして、どんなところで?

 

そして何よりも、、スマブラ

 

スマブラのオフに行くのが一年ぶりで、感覚が戻らない。その「一年ぶり」の間にも色々あったので、さらに遠い昔に感じる。

SSQMの大会。ずっと心待ちにしていた日のはずなのに、どこか上の空だ。

 

ぼーっと空を見上げながら、とりあえず近所のスーパーへと向かう。コーラを買いに。

 

 

 「お守り」

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あなたにも一つ、あるのではないだろうか。「ゲームイベントに必ず持っていくもの」。言うならば「お守り」のようなものだ。食べ物でもお菓子や飲み物でもエナジードリンクでも、なんでもいい。俺の「ゲームのお守り」はコカ・コーラだ。対戦ゲームでひっきりなしに押し寄せる勝負の読み合い、それに疲れた脳に必要なものは糖分と糖分、そして糖分だ。それを一口で満たしてくれるのが他でもない、コカ・コーラ

 

というわけで、オフ対戦会の前には必ずコーラを数本買うようにしている。これは昔から変わらない。いわばルーティーンというやつだ。



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「いらっしゃいませ~」

 

スーパーに入り、ジュース売り場を探す。いつものように商品棚の間を歩いていると、ふと懐かしい感覚が込み上げてきた。香川のスーパーでも、こうやって朝からコーラを探したな。近所のスーパーだけじゃない。宅オフで一人見知らぬ町に行くときも、皆で車に乗って高知県まで行ったときも。今まで参加した全ての大会の会場を覚えているが、それと同じくらい、コーラを買いに寄った店も何故か覚えている。

 

そこでようやく、あの感覚を取り戻した。俺は今日、スマブラをしに行く。ゲムヲで対戦相手を全員倒しに行く。この冷えたコーラは、そのための装備であり、お守りだ。

 

「ありがとうございました~」

 

 

店の外に出る頃には、全てがあのときの感覚だ。オフ対戦会へと向かうときの、高揚感と緊張感。イヤホンを耳に当て、スマホからお気に入りの音楽を流して気分をさらに高める。マスクの下では無音の大熱唱、サビが流れる頃にはすっかりそのバンドのメンバーになった気分だ。わかるよポルノグラフィティ。どうしてこうも、俺たちが跨ろうとする風に限っていつも、ハネウマのように乱暴なんだろうな────




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山手線を回り、道に迷いながらもようやく着いた。 決戦の地、LFS 池袋 esports Arena に。入り口のドアを開けると、気高い雰囲気を醸し出す、広々とした下り階段が迎え入れる。

初めての東京のオフ大会。いったい、どんな店なのだろう。地下へと続く階段を見下ろしながら、期待と不安に眉をひそめる。池袋のパチンコ屋の脇にあるような店、それも陽の当たらない地下。さしずめ狭くて暗くジメっとした、オタク好みの店なのだろう。

 

ドアを開けて店に踏み入ると、その安直な憶測はどこかに消え散った。目の前に広がるのは、会場── e-Sports の、会場だった。

 

 

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YouTubeの大会配信で見たことあるような舞台、配信台。その背景に大きくそびえ立つ大スクリーン。舞台の手前には、横一列に立ち並ぶモニターにゲーミングチェア。どの画面を見回しても、皆スマブラで対戦をしている。スピリットを付けながら。とにかく開放感のあるその会場は、言うならば店というより体育館のようだった。どおりで、e-Sports がスポーツと言われるのも、少しわかる気がした。

 

つかの間、圧倒的な会場に見とれていた。なるほど、これが東京か。一通り見回した後、ふと我に返る。

 

やべえ。受付してないじゃん。

 

このままでは、会場に入ってゲームをするでもなく、ただただウロウロしている不審者だ。早く受付をしなければ。

 

しかし、そのときの会場の様子を見ていれば、俺が受付を忘れたのも納得してもらえるだろう。皆スマブラをしているのである。目に入る人全員、一人の例外なく、真剣に。入口に受付のような人もいなかった。

 

仕方がないので、試合を終えたフリー台のプレイヤーに声をかける。

 

「お兄さん、受付ってどこでしてますか?」

「ああ、なんかまだしてないみたいですよ」

 

えっ。案外ユルいんだな。胸の奥にあった少しの緊張が、さっとほぐれた。

 

「そうなんですね…。まあいいや、やりましょやりましょ(笑)」

 

カバンを置き、奥からコントローラーとコーラを取り出す。会場も受付もどうだっていい。まずはこの対戦相手に見せつけてやる、俺のゲムヲを。




 

プシュッ。

 

コーラを開け、今日最初の一口を喉に流し込む。炭酸の強い刺激と砂糖の過剰な糖分が脳に届き、勝負の感覚を研ぎ澄ます。

 

ぷはーっ。

 

準備万端。絶対に勝つ。カウントダウンと共に、いよいよ俺のゲムヲが走り出す。



 

 懸念

 

今日、俺は後ろめたさ、、気がかりな事を一つ抱えながらこの会場に来ている。

 

俺はスマブラSPが好きじゃない。

 

 

 

 

とはいっても、SPやそのプレイヤーを忌み嫌っているわけでは決してない。ただただ、俺にSPが合わなかったのだ。

 

けれども、スマブラとプラットフォームファイター*1は大好きなんだ。DXやPMのプレイヤーは応援しているし、俺自身も Rivals of Aether *2に熱中している。だから俺は今「スマブラやSSQMを遊びに」というよりも、プラットフォームファイターを楽しみにこの会場に来ている部分がある。

 

それにしても、どうしてもアウェイな気持ちが拭えない。この会場にいるプレイヤーたちは全員、おそらくSPの傍ら・片手間にSSQMをやっている。日々スマメイトのレートを上げるために切磋琢磨しているに違いない。女王杯を終えれば、明日からはまたSPに励むのだろう。

そんな中に独りで来た俺は、言うならば「阪神の応援席に紛れ込む巨人ファン」のような気分だ。

 

 

 

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しかし、そんな些細な考え事も、ゲムヲの上スマで相手のストックもろとも消し飛んだ。

楽しい。燃える。やっぱり面白いぞ、SSQM。どこで誰とやろうと。四国のコタツの中でやろうと、池袋の地下の e-Sports 会場でやろうと。

 

俺にどんな過去や背景があろうと関係ない。ここにいる人たちは皆、SSQMをやりに来てるのだ。他の何が嫌いであろうと、SSQMが好きであればそれでいい。



 

 

 

……「ずっしり乱闘」なんだよね?上に飛ばないんだよね?わかるわかる、ちょっと強すぎるよねこの上スマ。

 

 

 開幕

 

「そろそろ大会を始めますので、次の試合でフリー最後にしてください~」

 

大会スタッフがこうコールしたときに、ちょうど試合を始めたばかりだったらどうすれば良いのだろう。この試合で最後?それとも「次の試合」だから丸々もうひと試合?

 

……よし、もうひと試合やっちゃおっか~!



ダメと言われたらやりたくなる。こんな子供じみた屁理屈がぱっと出てくるほど浮かれてしまう。今も昔も、フリー台には不思議な魔力があるのだろう。

 

その魔力になんとか抗い、リザルト画面と共に対ありをする。対戦ありがとう、次に貴様と会うのはあの舞台の上だ。

 

舞台前にプレイヤーが集まり出す。会場は徐々に騒々しくなり、熱を帯びていく。解説席のソファーに座る二人が、カメラ目線でマイクを握った。いよいよ始まるんだ。待ちに待った、第二回女王杯SSQMが。

 

www.twitch.tv

 

大会配信が始まる瞬間のクリップ。音量注意。

 

オムナオトくんの魂のタイトルコールが全てを叫び潰しているけれど、このとき会場では大喝采だった。拍手、指笛、ガヤ……俺はプレイヤーたちの想いと熱量を肌に感じた。会場に響くこの歓声は、歓びの声に他ならない。ここにいる全員待っていたんだ、この日を、この大会を。




 「主人公」

 

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いよいよ幕を開けた、第二回女王杯SSQM。本選第一回戦の相手は seem くん、ソラ使いだ。

 

SSQMのソラは、強い。俺はDLCコンテンツを買ってないので、ソラを動かしたことがない。それでもすぐにわかる、強い。

 

何が強いって、「全部が順当に強い」。特別何かに尖っているわけではなく、全部がいい感じに強い。そしてさらに飛び道具・復帰阻止のカウンターと、このゲームに欲しいものを幅広く持っている。それゆえ、俺の中でソラは「SSQMの主人公」の立ち位置にいる。





ファイターの中には、SSQMの仕様に苦しめられているキャラが多々いる。「ずっしり乱闘」で上方向に飛ばないため、メタナイトは得意の即死コンボができない(代わりに横方向の復帰阻止で輝いている)。ピチデはカブのダメージが下がっている(スピリットの攻撃力/防御力上昇はファイターに適応されるが、アイテムには適応されないため)。ダックハントは……ダックハントだ。

 

そんな中、ソラは「QMナーフ」を受けていない。それが一番表れるのが、復帰のときだろう。

 

 

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SPでもかなり変則的で強いソラの復帰だが、SSQMでは手が付けられなくなっている。「ずっしり乱闘」の影響で復帰の挙動が変わってしまっているキャラが多い中、ソラはSPと同じように舞い回るのだ。むやみに崖外に飛び出したくない、崖外のミス一つが命取りなこのゲームで、あのように帰って来られたら誰も止められない。

 

SSQMを遊んだことのない方は、この文章を読んで「…それだけ?」と思われるかもしれない。そんなアナタは、ぜひ第三回女王杯SSQMの会場にコントローラーを持って足を運んでほしい。キーブレードと共に自由に飛び回るソラを、貴方はただただ見上げることしかできないだろう。

 

加えて、これを読んでほしい。

 

運動技能

  • 超能力系ジャンプ - 空中でジャンプを行う際、上昇の初めが遅く、少ししてから一気にふわりと浮き上がるタイプのジャンプ。
    これらは個別に性能が割り当てられており、本人に設定されたジャンプの上昇力に依存しないという特徴を持つ。
    この空中ジャンプを持つファイターは、空中ジャンプの高度が非常に高いという長所を持つが、上昇中に空中回避を行った場合、上昇距離が縮んでしまうという欠点を持つ。
    また、スピリッツなどによって空中ジャンプの性能を変化させる事も出来ない。

ソラ (SP) - 大乱闘スマッシュブラザーズWiki

 

ソラにQMナーフは効かない。偶然か運命か、桜井政博が直々にそのように設定しているのだ。これを主人公補正と言わずに、なんと言おう。

 

 

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さらに、ソラはしっかりとSSQMの恩恵──「QMバフ」も受けている。彼を語るにあたって、あの鮮やかなコンボは外せない。

 

ソラが追加された直後、SPのオフ大会でザクレイが優勝したことは記憶に新しい。ソラという新キャラに対して、多くの人が持っていた「強そうだけど何もない」という印象を一変、「高火力の変則的なコンボキャラ」に仕立て上げてしまった。

 

SPと同様、SSQMでもそれを支えるのが下強と上強だ。相手を軽く上に打ち上げる、お手本のようなコンボ始動技。(個人的には性能だけでなく、モーションもとても王道、『主人公』っぽくて好きだ。下強は正面の相手を薙ぎ払い、上強は頭上を覆い対空にも使える始動技……良い。)

 

SPでも素直で強力な性能をしているこの技。「ずっしり乱闘」がつくことによって、どこまでもコンボが繋がるようになっている。高パーセントであろうとお構いなしだ。

 

SSQMという新たなステージで、自身の長所を更に伸ばして闘う。さらに、技までも粒ぞろいときた。素直で振りやすく撃墜までする空中技、空を舞い遊ぶ復帰、撃墜やコンボに使える飛び道具、復帰阻止に使うカウンター……。

 

しかし、これだけ技能を持っていようと、それだけで「主人公」は名乗れない。SSQMという舞台では。

 

 

 「主人公らしさ」?

 

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対戦ゲームにおいて「全部中くらいはあって粒ぞろい。だけど、尖っていない」。こんな「中堅キャラ」……中堅下位キャラを、あなたは今まで何体見てきただろうか。わかりやすいところで言えば、「昔のマリオ」だ。

 

マリオは多くのゲームにおいて「バランスキャラクター」というデザインだった。良く言えば、ゲーム初心者でも扱いやすい主人公だ。しかし、コアゲーマーからすれば「無難」に他ならない。熱く楽しく対戦ゲームをしようというときに、「よし、今日は無難にいこう!」と誰がなるだろうか。今でこそスマブラで尖り始めたマリオだが、昔は「粒ぞろいの器用貧乏」に過ぎなかった。

 

対戦ゲームにおいて「主人公」と「器用貧乏」は紙一重だ。いくら手の内に色々持っていようと、「器用貧乏」から頭一つ抜きんでる何かを持っていなければ、主人公らしい主人公にはなれない。

 

ソラにとってその「何か」は、右手に持つキーブレードだったのだろう。



 トップキャラである条件

 

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SSQMにおいて、上位キャラになるために絶対に外せない要素がある。撃墜力だ。

無限の上昇力、無法の空中技、無情のコンボ……立ち回りでいくら無双しようと、撃墜できなければ全ては無用。相手がせわしなく動き回るこのゲームでは、いくらダメージを与えようと、撃墜手段が無ければ相手の背中を追い回すことになる。パックマンが良い例……悪い例だ。

 

 

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そのうえで、ソラには強力な撃墜手段がある。「空前二段着地横スマ」。文字通りの単純明快なコンボだが、この上なく強い。空前二段目という立ち回りでも振るような手軽な始動技から、何パーセントでも横スマが繋がる。相手の一瞬のスキを許さずに撃墜に持っていく。ソラの多彩な戦闘を締めくくるこの技こそ、ソラを強キャラたらしめているのであり、俺の中で主人公のように映り続けるのだ。

 

 

 悪寒

 

初戦から主人公と対面することになろうとは。これは強運か悪運か、どちらに転ぶのだろう。しかし、幸いなことに……勝てる。

 

ゲムヲとソラ、これからお互いに研究を詰めたらどちらが強いかなんてのは、まだ分からない。確かにソラは強い。けれども、ゲムヲだって強いんだ。少なくとも今日、いま──この1回戦では、勝てる。

 

試合中にそう確信した。相手の癖や行動は読めた。ゲムヲとソラ、キャラクターの強弱がはっきりする前に、俺の技量で撃ち破ってやる。

 

しかし、そう単純に事は運ばない。いくら小手先の技量があろうとも、対戦ゲーム……勝負事で勝つことはできない。

勝負事は、メンタルが最後に物を言う。

 

 

 

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「キャラクターが思うように動かない」。

 

 

オフ大会の本選、誰しもがいつかどこかで感じたことのある、あの悪寒。

 

違う、そこの確定反撃はそうじゃない。それは安い。

そこは大技を狙わないで、確実に取れるダメージを獲ったほうがいい。

 

──自分のプレイを、自分で否定しながら操作する。より悪循環に落ちていく。

頭では違うと分かっていても、それを指先に伝えられない。

「早く勝負を決めたい」「ここで撃墜して勝ってしまいたい」、緊張と欲望が入り混じって生まれるその情緒に、振り回される。

 

 

 

スマブラSPが発売して3年。オフ大会に日頃通っているプレイヤーたちにとっては、過去の苦悩だろう。初戦で緊張なんて、可愛いものだ。しかし、俺は長らくこの土俵に立っていなかった。勝負の感覚を忘れていた。指先が震える。こんなとき、SPのプレイヤーの俺、ネバダさんはどうしていたのだろう。ダメだ──勝てない。

 

気が付けば、1戦目を取られていた。SPで負けるときも、いつもそうだった。

「気が付けば」……

 

しかし、動揺に苛まれる中、ある言葉を思い出す。

 

「攻めたほうが悪い」。

 

SPをやっていた頃、負けそうになるたび自分に唱えていた言葉だ。

俺は、SPとは究極のところ「攻めた方が負ける」ゲームだと考えていた。上手い人がやるのは「攻めるフリ」であって、結果相手を「動かして」「攻めさせ」ている。けれども、俺は上手くないんだ、攻めるフリなんて上手にできない。ならば──「攻めたほうが悪い」。

 

この信念は、果たして正しかったのだろうか。SPから身を引いてしまった今となっては分からない。それでも、俺は四国でずっとこれで戦ってきた。そして一戦目を獲られてしまった今も、これしかない。

 

緊張と不安に足を持っていかれぬよう、古き信念にすがりついて始まる二戦目。「攻めたほうが悪い」。試合中にこれを考え続けたら、一転して気が楽になった。肩の重荷が下りたように。

試合の展開を、攻めで考えない。全て守りで考える。こちらから相手に寄るのではなく、相手を引きながら寄せ付ける。勝てなくても、負けなければいい。

試合の中で、自分の戦い方を思い出した。

 

 

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勝った……。あの一戦目から、よく二本獲り返したものだ。気が抜けるように大きく一息ついて、 seem くんに挨拶する。

 

そのときにふと見えたものを、俺は今でも忘れない。

seem くんの指先は、まだ震えていた。



 

 いよいよ、

 あの舞台へ。

 

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ネバダからキマした。……さん、配信台です」

 

手元の端末を見ながら、呼びづらそうにスタッフさんが言う。

 

来た。いよいよあそこに座れる。俺のゲムヲを、SSQMに知らしめる。配信台でプレイしたくて、ずっとウズウズしていた。

大会が始まる前、「配信台、誰にしよう。『我こそは配信台』って人いますか~?笑」とスタッフさんが募っていた。周りのプレイヤーたちは笑い流していたが、俺はその間、瞳孔が開くのを感じながら震える手を抑えていた。

 

いざ舞台の下に行くと、やはり、、すごい。圧巻される。巨大なスクリーンにずらりと並ぶ87体のキャラクター。実況解説の二人が座るのはシャレたソファー。対戦モニターの脇には、Go*roなんかじゃない、立派な「撮影用のビデオカメラ」が取り付けられている。

 

しかし、これだけ立派に飾り立てられている舞台でも、意外にも一つ欠けているものがあった。

 

緊張感だ。

 

──違う、「会場や大会の締まりがなく、力が入らない」という無礼な意味では断じてない。待ちわびた女王杯の開幕に、会場の熱は最高潮に達していただろう。実況解説の二人も、笑いあり叫びありの、気迫に満ちた喋りで試合を彩っている。スマブラプレイヤー── "e-Sports 競技者" であれば一度は立ちたい、最高の舞台だ。

 

ただ……「俺が緊張しなかった」のだ。

 

 

 俺の中にある

 「配信台」

 

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思えば、俺が一番お世話になった、言うならば「ホーム」のオフ対戦会場──ブックオフアリーナでは、いつも誰かがそばにいた。スマブラをするときは対戦相手が、ボードゲームをするときは同卓相手が、休憩するときは話し相手が。

清潔感と開放感を醸し出しながら、決して狭くはないが広すぎない、ほどよい広さのあの空間。そんな場所で大人数集うオフ対戦会が開かれようものなら、常に隣にプレイヤーがいた。フリーをしてるときも、観戦してるときも。そんな空間で一緒に夜までスマブラをしていれば、帰る頃には全員顔見知りだ。

 

 

 

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引用元:

https://twitter.com/smash_tenkai/status/1301827513056817152?s=20&t=-Dk2DKGTfsJm8fjZaSIt8Q

 

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その距離感は、配信台とて例外でなかった。配信台の画面は、60インチは超えるであろう大画面。その前に観戦者たちが所狭しと座る。大画面の両脇にそれぞれ一台ずつモニターが置かれていて、プレイヤーはそれを挟んで向かい合うように座る。俺は向って右側に座るのが好きだった。

 

つまり、観戦者とプレイヤーの距離がとても近いのだ。自らのプレイが湧き上げた喝采は、全て左耳をつんざく。撃墜をすれば歓声が上がり、ミスをすれば悲鳴が漏れる。自分がプレイしてる真隣で、大勢の人間から。会場で上がる大きな声量と共に、観戦席の熱がプレイヤーの肌に直に伝わる。それが俺の初めての配信台であり、何年も座り続けた場所だ。

 

昨年、閉店してしまったブックオフアリーナ。それでも、あの空間・あの配信台は、俺の中でずっと特別な場所──ホームであり続ける。今でもゲーム中にふと顔を左に向ければ、あの歓声と笑い声が聞こえてくる。

 

 

 

 

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今は無き四国の舞台に思いを馳せながら、観客席を見下ろしてみる。

 

──遠い。

周りの人たちがとても遠くに感じる。

 

確かに観客はスクリーンを見ている。実況解説は俺と対戦相手のことについて話している。けれども、、みんな、離れている。「圧」を感じない。

おかげでさほど緊張せず、いつも通りでいられた。これは好都合だ。

 

けれども、あの配信台の雰囲気はもう味わえないのだろうか──そう考えると、どこか寂しさのようなものを憶えた。こんなに立派な舞台の特別席に座れているのに。

 

しかし、今は勝つしかない。気を引き締め直すべく、モニターの脇に置かれたコーラを握り、ひと飲みする。

 

東京のオフ大会の配信台に座ったら、絶対にやりたいことがあった。

…こんなに良いカメラを使いやがって。

モニター脇のカメラに目線を送り、決めポーズをキメる。

 

 

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今、四国のみんなが絶対に応援してくれている。……もしくは後で録画を観てくれる。数百人が見守る配信でこんなポーズをしてしまったからには、おめおめとこの舞台を下りるわけにはいかない。皆、見ていてくれ。

 

 

 参上、

 SSQMカービィ

 

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対戦相手はカービィを使う wawon くん。カービィについては……何もわからなかった。一年前にSSQMを始めたあの日、友人が数戦触って「つえ~~良い感じ!」と言ったっきりなので、強くて良い感じだということしか分からない。なので、とりあえずSPのカービィと同じように戦うことにした。

 

「強くて良い感じ」の意味が分かるまでに、さほど時間はかからなかった。試合が始まりゲムヲがダメージレースで先行する。が、カービィは重めのコンボ一発ですぐに追いついてくる。なんでも繋がる空下から始まり、連打可能な上強と「ずっしり乱闘」が非常に良くかみ合っている。64カービィのようなお手玉で、みるみるダメージが重なっていく。

こうなったらゲムヲがやることは一つ。

 

カチャカチャカチャカチャ……‼

 

九死の上Bの連打に、救助隊が駆けつける。わずか3Fで。無敵フレーム付き。

この策士の策略により手痛いダメージを受けずに、なんとかコンボを抜け出す。しかしまあ、ゲムヲじゃなかったらどうなっていたんだろう……



 

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カービィでは「SPと同じように戦う」という戦法が偶然にも功を奏した。確かにカービィは強い。特筆すべきはやはり空下。SPでは強攻撃や、せいぜい掴みにしか繋がらないあの技が、なんとしっかりスマッシュ攻撃に繋がる。絶対に当たりたくない始動技だ。

されども絶大な「QMバフ」が付いたとて、弱点はSPと変わらない。「真上から差し込まなければならない」、「発生がさほど速くない」。上方向への判定がすこぶる固いゲムヲにとって、上からの差し込みほど対応しやすいものはない。さらに、「発生がさほど速くない」に加え「ジャスガのタイミングが単調になってしまう」という点もある。一度空下を入力してしまうと、その後からディレイをかけることなどはできない。最終段のタイミングは必ず一定でかつ遅い。ジャスガを取ってしまえば、あの恐ろしい空下だって確定反撃だ。

 

試合冒頭は、俺のゲムヲが「SP的優位」を取っていく。カービィの上からの差し込みに対して、SPのように反撃を取り続けた。SPのプレイヤーだった頃の感覚を呼び戻し、手癖で対処していく。

 

このままいけば、勝てる。

 

しかし、今日俺たちが競っているのはスマブラSPではない。試合を進めていくうちに、クイーンメトロイドが牙を剝く。

 

──上Bが間に合ってない……!?



 

 異変

 

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カービィが空下で着地して、そのままガードしている。上Bで飛び上がるゲムヲと入れ違いに。

考えられない。あのなんでも跳ね返してた上B。空下なんて「見てから反撃」の筆頭だ。「着地隙減少」はダテじゃない。

 

フレーム上、厳密に上Bが間に合ってないのかは分からない。もしかしたら、ただ猶予が小さくなっているだけかもしれない。それでも、SPの感覚でいくと間に合わない……!

wawon くんは、場数を踏んできた勝負師なのだろう。すぐさまそのことに気付き、立ち回りを変えてくる。上手いプレイヤーは、いつだって敵視点で試合を見ているものだ。

俺も慌てて「ジャンプ潰し・ジャスガ狙い」に切り替える。これまでやっていた立ち回り「安全なシールドの中から、空下を見届けてから反撃」とはワケが違う。ジャスガに失敗すれば、待ち受けるのはあの空下だ。一度のミスでストックを搔っさらわれるかもしれない。リスクが一気にうなぎ上りだ。震える。これがクイーンメトロイドの力か。



途中、SSQMの沼に足を取られそうになったが、なんとか逃げ切るように勝つことができた。試合が長引いていたら、危なかったかもしれない。肩から力を抜いて、カメラに向かってまた決めポーズをした。

 

 

 

上Bが間に合わなかったのは、全て俺の錯乱に過ぎなかったのだろうか。それとも、本当にあのゲムヲの上Bが相対的に「QMナーフ」を食らっているのだろうか。理屈で考えれば、おかしなことではない。ゲムヲ使いとしては考えたくない事態だ。考えたくはないが、もしそうであるのなら……

 

SSQMは、攻めが強くなっている革新的なゲームだ。



──「攻めなかった方が悪い」。

 



……

 

内容はともあれ、配信台でストレート勝ち。波が来ている。今日の俺は、大会をゲムヲで荒らしに来た悪党なのかもしれない。

しかし、悪党は一人だけじゃない。それでも、党首はいつだって一人だけだ。

 

 

 立ちはだかる、

 ダイヤルカズヤ

 

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次なる対戦相手は、ダイヤルく……うわっなにこの人オシャレ。

一見すると、チャラめのファッションだ。ちょっとイカついアクセサリーを身に着けてはいるが、全体的には落ち着いた色合いだ。根の優しさ・人柄が節々に滲み出ているように見える。穏やかな話し方からも、それがさらに伺える。

 

どのオフにもいるんだなあ、こういうステキなオシャレ兄さん……四国にもいたっけか……。

昔の顔ぶれをちょっと思い出しながら、自分の黒チノパン白ワイシャツに目を下ろす。

 

使用キャラはカズヤだという。感心したのもつかの間、それを聞いた途端ふと冷たい直感が過る。

こいつ、ヤバいかもしれない。



 

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「QMバフ」の肝は、「空中攻撃の着地隙減少」だ。SPでは隙が大きくて強気に振れなかった空中技を、立ち回りやコンボでバンバン振れるようになる。一方、地上攻撃の硬直に変化はない。よって、空中技をあまり振らないキャラクターは恩恵を受けづらい。それがカズヤだ。

しかし、空中技強化を捨てたカズヤには、代わりに大きな追い風がある。「ずっしり乱闘」、相手の空中落下速度上昇だ。ソラ、カービィ…ここまで見てきたように、相手が飛びにくい分、このゲームのコンボはどこまでも繋がる。

 

立ち回りの大幅強化を捨て、コンボ一辺倒。そのように特化した尖ったキャラを使おうなんてプレイヤーは、よっぽどやり込んでいるに決まっている。

 

そんな危険なニオイを感じ取った。しかし……第一回戦のソラのときと同じように、またもや相手のキャラクターの対策がわからない。DLCコンテンツを買っていないので、技すらわからない。「使い方」くらい観ておくんだった~……。

次々と初見の強敵が立ちはだかる、まるで勝ち上がりのボスラッシュのようだ。



 

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しかし幸いなことに、格ゲーキャラに対してのゲムヲは相場が決まっている。全ゲムヲ使いが知っていることだ。時々しゃがんで攻撃を避けながら、コンボに対しては……そう、上Bだ。一度跳んでしまえばこちらのもの。上Bで逃げるゲムヲに追いつける格ゲーキャラはいない。

「格ゲーキャラに対してゲムヲはガン有利」、それが俺の現役時代の常識だった。しっかり堅く立ち回れば、カズヤのコンボなんて──




えっ なんかダウンさせてくるんですけど 上Bできませんやん

えっ なんかスタンさせてくるんですけど 上Bできませんがな

えっ なんかこの小突き、しょぼい見た目に反してガー不なんですけど 上Bできませんよ

えっ 向こうのガーキャン上Bは死にかけるんですけど

えっ なんかコンボ中に上スマチャージしてくるんですけど

えっ カズヤ赤いんですけど

えっ なんかカメラがズームして巴投げで吹っ飛んだんですけど かっけぇ



えっ なにこれ?



カズヤがわからない。わからなさすぎて、ルーザーズで当たった別のカズヤ Hope くんにも驚かされた。なんか…DXのカービィの後ろ投げみたいな技で一瞬でストックが消え散った。あまりに驚いて、腹の底から驚嘆の声を上げてしまった。

 

聞きたいことが多すぎる。質問が山ほど湧き上がる。が、まずはなんとか一つだけに絞って、ダイヤルくんに落ち着いて聞いてみる。

 

「カズヤが赤くなるの、なに?」

 

あのときの彼の「……?」な顔を、俺は忘れない。



俺の背景を説明して、ようやく質問を飲み込んでもらえた。一つ質問したら二つ返してくれるように、わかりやすく丁寧に教えてくれた。そっか、赤くなるとヤバいんだね。本選中、それも対戦相手にありがとうね。

 

しかし、質問の二つや三つで党首を獲ることはできない。

俺のゲムヲは、カズヤの手によって無慈悲にルーザーズの崖へと突き落とされた。

 

 

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そんなわからないカズヤだが、一つだけわかったかもしれない事がある。

このキャラクター、SSQMの方がバランスが良いだろう。

 

ガー不・ダウン・スタン……こんな技、SPの限られた機動力で振られたらひとたまりもない。QMバフでこちらも自由に動き回れるから、まだ許せる。「当たったほうが悪い」と言えそうだ。

さらにあのガーキャン上B。「ずっしり乱闘」であんなに飛ぶのなら、SPだったらストックが一つ溶けてる訳だ。恐ろしすぎる。

 

 

ソラの躍進、カズヤの均整……。

DLCコンテンツは、桜井政博がSSQMの襲来を見こして生み遺したキャラクターたちなのだろうか。その幻惑をさらに加速させる帝王が、この後炎の中から現れようとは。



 

 問題児、

 ロックマン

 

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ルーザーズ。初戦からまたもやカズヤに当たり動揺するが、ダイヤルくんに聞いた知識を活かしなんとか勝ち上がる。

まったく、どいつもこいつもやらしいキャラばっか使いやがって。今日はゲムヲの救助隊が忙しい。

 

次に立ちはだかるのは、ロックマン



──ロックマン



俺のブログを読んでくださってるアナタには、戦慄が走ったかもしれない。……読んでないから戦慄が走っていないかもしれない。過去の記事でも説明したが、ロックマンはSSQMの「3弱キャラ」だった。文句無しの。

 

SPでは高く上昇していたソニックロックマンの上必殺技が、全く跳ばない。ダックハントに至っては使うと滞空し、なんなら少し落ちてしまうという有様である。

 

この3体はキャラクターとして機能していない。

SP──"Special" の向こう側へ。【スマブラ SSQM】 - 下投げ横B

 

 

……そんなロックマンが、ルーザーズ準決勝目前まで駆け上がっている。一体どういうことだろうか。

 

 

心して聞いてほしい。ロックマンは今、SSQMで

 

飛ぶようになった。

 

飛ぶというのは、比喩表現ではない。

ロックマンはこのゲームにおいて、無限ジャンプを手に入れた。

 

 

 

 

詳細は省くが、大まかな仕組みとしてはこうだ。「空中でラッシュコイルを連続で踏み続けることによって、空中ジャンプと上Bを復活させている」。

 

崖外で、好きなタイミングで空中ジャンプと上Bを得ることができる。はっきり言おう。狂気だ。狂っている。

 

 

 狂ったキャラクターたちに、

 狂わされるゲーム

 

「SSQMはSPのオマケだ」と思っている人がまだいるのであれば、聞いてほしい。あなたが知らないうちに、SSQMは、既に別のゲームへの領域に入っている。根拠を3つ挙げよう。

 

 

 

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①戦闘中における展開の違い

確かにSPとSSQMは、ゲームシステムを共有している。掴みボタンを押せば同じ掴みが出るし、ガードボタンを押せば同じガードが出る。受け身だって変わらない。「スピリットを付けた途端、新たな受け身の種類が追加される」なんてことはない。しかしながら、「受け身展開が発生する場面・頻度」が決定的に違う。

 

SSQMでは、ベクトルが低くなったことによって受け身展開が増えている。*3さらに、ゲームスピードが上がっており、受け身がさらに難しくなっている。SPでは滅多に起こり得ないような場面──立ち回りやコンボの中でも、受け身展開が起こるのだ。

これによって、SSQMではプレイ中に考えることが一つ多い。受け身の準備だ。コンボを受けているときでも、ニュートラルであっても、突如始まる受け身展開を、頭のどこかでSP以上に気を張り詰めて備えていないといけない。意識の外から飛んできた受け身展開、失敗して待ち構えるのはクイーンメトロイドの覇気をまとったコンボだ。

 

試合の大部分の時間において、新たに考えることがある。立ち回りや試合展開にも大きく影響する。これほどゲームプレイに違いがあれば、俺なら同じゲームとは考えずに対戦に挑む。



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②キャラランク・メタの違い

 

「対戦ゲームにおける、盛衰の指標となる中枢」とは何だろう。ゲームの売上本数?e-Sports としてのプレイヤーの数?観客の数?対戦ゲームの中枢は、そんな外的要因ではない。ゲームの核となるキャラクターたちが作り上げる、メタだ。今日遊ばれているタイトルの多くは、メタが進化し続けている。

スマブラシリーズの例を見てみよう。前作、「スマブラfor」。SPには及ばないものの、 このゲームのコミュニティだって膨大だった。ウメブラとなれば配信も掲示板も大盛り上がり、世界大会に足を運ぶ日本人プレイヤーも多くいた。現在のSPの競技シーン・コミュニティの土台となった for の功績は計り知れない。しかし、それほど人気だったゲームも今では全く遊ばれない。何故か。それはメタの進化が止まってしまった──死んでしまったからである。

ここで詳細を書くつもりはないが、for経験者であれば語らずとも頷いてくれるだろう。あのゲームは、強キャラたちは強キャラで居続け、弱キャラは下に居続ける。仮に今からいくら研究しても動くことはないだろう。ゲームが完全に止まってしまったのだ。歪な形のまま。

「新作が出たから遊ばれなくなった」というのは根底の原因にはならない。64とDX、スマブラというシリーズだけでも2作もが証明している。発売から20年以上経った今でも遊ばれ続け、今でもメタ──ゲームが進化し続けている。

 

では、SSQMはどうだろう。これが現在、第二回女王杯SSQMを受けての暫定キャラランクだ。

 

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これを作ったのはキクノくん、、リーダーだ。(俺が彼をこう呼んでいる理由はまた後述する。とにかくリーダーだ)

リーダーはこの大会でも準優勝という結果を収める実力の持ち主。大会の前日には持ちキャラのゼロサムを開拓・練習する配信をし続け、なんと大会の翌日にも意欲の炎を絶やさず開拓配信をした。…「最弱キャラを救いたい配信」、ダックハントの。

配信内容、そして実績から見て取れる。彼のSSQMに対する愛と実力は本物だ。

 

しかし、あくまでこのキャラランクは、その実力者が「彼が今見えているSSQMの世界の中で」作ったものに過ぎない。このランクを作る配信でも、彼は「とりあえず」一旦これで皆に提出しよう、と締めくくっている。SSQMというゲームは、まだ始まったばかり。メタなんてまだ誰にも分りようがない。

このランクの下部を見てほしい。下に溜まっている大量のキャラクターたちは、全て “idk” 「何もわからない、未知数」なのだ。「とりあえず」作り上げたキャラランクに、これだけの「未知数」がいる。それがこのゲームの可能性の広大さを示している。

次にキャラランクができるときには、これらのキャラクターが上位を陣取っているかもしれない。

 

……待てよ、ゲムヲがAランク?

リーダーおめぇ俺と対戦してねえじゃねえか!貴様のSにゲムヲをねじ込んでみせる。

 

でも正直、ちょっとわかる……。

 

上位のキャラクターたちだって、決して定まったわけではない。そんな状態にはまだほど遠いだろう。言うならばこれは、SPの発売直後に ZeRo が発表したキャラランクのようなものだ。「世界一のプレイヤーでさえ、最初期はメタの動きが予測できない」。彼はそれを証明してしまった。ZeRo が発表した当時のSP最弱キャラ、その中にいたのはMr.ゲーム&ウォッチだった。

 

 

SSQMには、まだ見ぬ未参戦のキャラ、新キャラが何十体といる。そしてそのメタ・キャラクターの強弱は、SPと関係せず独立している。「SPで弱いキャラクターは、SSQMでも弱い」という相関は成り立たない。逆も然りだ。配信台で暴れ回るカービィを見てほしい。無限の可能性を秘めているリトルマックはどうだろう。(※前回のSSQMの記事参照)ダックハントは……がんばれ。

 

ゲームが異なれば、メタの育ち方も異なるのだ。

 

 

 

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③SPの枠を外れたキャラクターたち

 

SSQMは日々進化し続けている、未来に溢れたゲームである。それを体現したのがロックマンだ。前述したように、彼は最初期「間違いなく3弱」と言われていた。そのように言われていた理由を知れば、誰だって納得するだろう。しかし、それが今では一気にメタを駆け上っている。SSQMの可能性を象徴するキャラクターだ。

 

ロックマンは今や、ただ強いだけではない。スマブラシリーズ全作を通して類を見ない、唯一無二のキャラクターとなったのだ。今でこそ丸くなってしまったが、過去のスマブラには「異端児」が数多く存在した。ハイラル神殿の端から端まで飛べるキャラクター、空上の発生が2F全体14Fのキャラクター、一度掴めば永パなキャラクター、それをも凌駕するトップメタのキャラクター……。様々な問題児を生み出したスマブラシリーズだが、「自身単体で無限に上昇できる」キャラクターは過去に存在しない。(スネークは上バーストしてしまうため有限である)そのうえ、ここでは分かりやすく「無限に上昇」と表現しているが、正確に言うならば「無限空中ジャンプ持ち」だ。他にそんなキャラクターがいるはずがない。そしてそのように枷の外れたキャラクターが、桜井政博の保護監視の下で現れることは断じてない。

SSQMは、「パーティーゲーム」として作られ護られているSP──今のスマブラから、一歩外に抜け出すことのできる別のゲームだ。

 

*4




 Gigabasu ロックマン

 宿命の対決‼

 

 

第二回女王杯SSQMを象徴するこのロックマン。対決できるなんて光栄だ。ただ──貴様と会うのは、あの舞台の上だと思っていた。

 

フリーで共に何戦か楽しんだ Gigabasu くんと、そんな笑談を交わしながら試合を始める。



 

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ロックマンだが、体感SPより戦いやすい。QMバフで機動力が上がっているので、ゲムヲであっても強気に差し込みに行ける。ロックマンのガーキャン行動が強くないのも幸いしている。どうしても飛び道具に押され負けて受け一辺倒になってしまうSPより、柔軟に戦える。確かにロックマンの差し込みの要「燃える鉈」こと空前は強靭だが、対するゲムヲの燃える救助隊「ファイア」は神速だ。

 

復帰阻止に関してもゲムヲは強気に出られた。あの空飛ぶロックマンであっても、どこまでも跳んでくるゲムヲのねばちっこい復帰阻止は侮れない。他の多くのキャラは、遥か彼方に飛んでいくロックマンを崖から見上げることしかできないが、ゲムヲは跳び出してくるのだ。またもや救助隊の力を借りて。

 

天下無敵とも思えるロックマンの無限上昇だが、止める手段が一つだけある。「ロックマンがラッシュコイルを出した直後に妨害して、再度踏ませないこと」だ。そうすれば空中ジャンプも復活せず、成す術なく落ちていく。

この理想の復帰阻止を決めたときのあの快感。誰でもできるわけではない、選ばれたキャラクターのみに与えられた特権、剣。……ゲムヲの場合は、亀。

これだからゲムヲは止められない、SSQMでも。

 

 

しかし、いくら幾分かは戦いやすくなったとはいえ、相手はただのロックマンではない。SSQMの3弱キャラをここまでのし上げた、熟練のプレイヤーが動かすロックマンだ。文章ではいかにも簡素に説明しているが、実際にやるとなると、この無限上昇の操作難精度は半端じゃない。涼しい顔をしながら、それを何度も崖外でやってみせる。戦闘中に。こいつも、やばい。この精度に達するまで、どれだけ練習してきたのだろう。

そんな狂──超人のプレイスタイルは、やっぱり堅い。

 

強い。やっぱり強い。俺は押され気味だった。


試合中ずっと「押され気味だな」程度にリードされながら、そのまま負けてしまう。それが「対戦相手が堅い」ということだ。

【スマブラ高知県大会】第4回きゃくブラ日記 - 下投げ横B

 

 

終始横並びの戦いに見えたものの、一戦目を取られてしまう。ダメージやストック数だけを見れば、一見均衡した「惜しくも負けた戦い」だろう。しかし、俺には分かっていた。分からされていた。

このままだと、勝てない。また同じように戦えば、リスクを取らせないままジリ貧で負ける。

 

次はもっとゲムヲの強みを押していこう。とにかく復帰阻止だ。絶対にステージに戻させない。ガンガン圧をかけてやる。ロックマンの復帰力は異次元だ。そりゃそうだ、無限空中ジャンプ持ちだぞ。しかし、先述したように完全無欠というわけではない。弱点はある。弱点が見えているなら、攻め続けるまでだ。幸いゲムヲは、そこを突ける数少ないキャラクターだ。

 

 

 ゲムヲの

 「圧」

 

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決死の覚悟を抱えて迎える二戦目。一戦目と同じように、展開は均衡していた。しかし、今回は先ほどと一味違う戦いを見せられた。

 

堅い相手に、堅く行っても動じない。ならば圧をかけるまでだ。

 

多くのキャラクターが持つ圧力とは、ガン攻めだったり強力な飛び道具といった、画面に表れる「圧」だ。しかし、ゲムヲの圧は一味違う。あなたもゲムヲと対戦して、一度は感じたことがあるのではないだろうか。画面には出ない、不気味な圧。自分が負けているわけではないのに、ゲムヲの漆黒を見ていると胸のどこかから湧き上がる「何かあるんじゃないか……?」という拭えぬ不安感。

ガン攻めに振り回す剣もなければ、チャージできる飛び道具もない。しかし、ゲムヲには他のキャラクターたちにはない独特な技がいくつもある。飛び道具を吸収し莫大な破壊力で返すバケツ、無敵で全てを吹き飛ばす上スマ、当たればストックを搔っさらう一発逆転の運試し……。

「壊し」。絶対に喰らいたくないものだ。格闘ゲームにおいて、これほどプレイヤーの心を揺るがす──壊すものはない。

 

堅く立ち回りながら、しかし時折それを見せつけていった。ロックマンのチャージ横スマの癖を読んで吸収したり、起き攻めに一点読みの強気なジャッジを当てに行ったり。

お互いの緊張が最高潮に達したラストストック、待ちに待ったその時が訪れる。

 

復帰阻止だ。

 

 

ロックマンが画面の右下から上昇し始める。

ステージと同じ高さまで飛んできたとき、それがチャンス。ゲムヲの空後、亀でバーストラインに押し込んでやる。

 

来た……!

 

ゲムヲが勢いよく走り出し、崖に背を向けてジャンプする。良い踏み切り。飛び出すタイミングは完璧だった。あとは相手を亀で叩きつけるのみ。

 

しかし、 Gigabasu くんも同じくずっと待ち構えていたのだろう。爪を隠しながら

そして、思ったのだろう。

 

「来た……!」

 

俺のゲムヲは、画面端のロックマンと共に昇り迫る竜巻に巻き込まれ、振り向きざまに放たれるスラッシュクローで切り刻まれた。

その行く先は、ロックマンが飛ばされるはずのバーストラインだった。

 

 

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一瞬の出来事だった。勝ったと思った次の瞬間には、負けていた。刹那だ。

崖外で飛ぶだけでは飽き足らず、まだ隠し持っていたのか、貴様。不利状況からあれほど華麗な反転攻勢を決められる。なんて面白いゲームなんだ。

 

最後に敗けるのがまさかあの、あのロックマンだとは。一年前は足元にも見ていなかったキャラクターなのに。「武者震い」とはこのことなのだろうか。敗けたのに、興奮が止まらない。開戦から敗退までもが面白い大会、女王杯SSQM。

 

こうして俺の女王狩りの野望は散った。しかし、池袋の地下の熱気はまだまだ収まらない。



 

……Gigabasu くんの竜巻空後、初見殺しで最初は皆さぞかし驚かされた。ただ、あまりに初見を殺め過ぎて、会場中が知っちゃったんだろうね。

サブイベントの配信台で Gigabasu くんが吹っ飛ばされたとき、会場中から「行くな!!!復帰阻止に行くな!!!!」って悲痛の声が上がってた。

 

復帰阻止に行くなって、なに……?

いや、でも確かにその通りなんだよな……

 

俺にはSSQMというゲームがいよいよ分からなくなってきた。

 

 

 昇天スピンキックと「あの頃」

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第二回女王杯SSQM。この熱戦を勝ち上がり優勝したのは、 DoubleA くんの格闘Mii だ。「格闘Miiがオフ大会で大暴れして優勝」。その言葉を聞いて「あの頃」を思い出した人もいるのではないだろうか。

 

そう、その一昔前、前作のスマブラforでも同じように格闘Miiで大会を荒らし、優勝を勝ち取った男がいた。DoubleA くんの格闘Miiは、その大会と同じように──その時を写すように昇天スピンキックで暴れまわった。64のような抜けられない上強お手玉から始まり、forのようなキックで締める。

 

皆はどのような気持ちであの決勝戦を観ていたかはわからないが、俺は懐かしさを感じた。スマブラに熱中していた、あの頃の気持ちを思い出させてくれた。こもすこ

 

観ている観客に、プレイを通じて熱い気持ちを沸き起こさせる。俺もそんなプレイヤーになりたいよ、 DoubleA……

 

 

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一方、隣でボコボコにされていたキクノリーダーは思わずこのポーズ。

わかる。

 

 

 

 

 

 勝負の幕間

 

トーナメントが終わり、緊張感から開放されたプレイヤーたち。熱狂の戦場から一転、会場は和やかな雰囲気に包まれた。そこで皆で笑談しているとき、カズヤ使いのダイヤル君が言っていた。

「こんなに楽しくて和気あいあいとしたオフ大会、他にはないですよ。」

「他は良くも悪くも『e-Sports』って感じです。」

 

確かに。この雰囲気は、ブックオフアリーナ、四国のオフで感じたものだ。参加者皆が仲間、友人というムード。

さらに、女王杯ではそこに二つの味が加えられていた。

一つは「絶対に勝ちたい」という緊張感。SSQMという新たな世界での頂点を決める大会。対戦相手全員から気迫や決意が感じられた。ステージ選択のときは手を震わせ、試合に敗けたときはうつむき塞ぎ込んでいた。「なんとなく戦ってる」というプレイヤーが一人もいない。

 

なぜそれほどこの大会に本気になれるのか、魂を込められるのか。二つ目の味、「参加者たちが心からSSQMが好き」。

皆、開幕から解散まで興奮しっぱなしだった。自分がプレイしていないときも配信台の試合を見て応援し、ときには非情のコンボに悲鳴を上げた。

SSQMは、皆にとって何もかもが新しいゲームだ。すべての立ち回り、すべてのコンボに新鮮さを感じさせられる。それを大画面で観ながら皆で応援すれば、希薄になり忘れかけていたあの感覚が呼び起こされる。小学生の頃、ランドセルを放り投げ友達の家で集まって新作ゲームを遊んだ放課後……。

 

そりゃ楽しいに決まっている。ダイヤルくんが「トーナメントに負けたのに面白かった」と一見相反したことを言っていたのも、何ら不思議ではない。

 

 

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ここまで堅い本選の勝負ばかり紹介してきたので、和やかなフリーの話をしよう。

ここで貴方に一つ質問がある。日頃スマブラオフに参加する貴方は、フリーで出会った対戦相手の顔やプレイヤー名をどの程度覚えているだろう。思い出そうとしてみると、「試合内容やキャラクターは覚えているのに」ということが常なのでは。ゲームの対戦会なので、試合内容ばかりを覚えてしまうのも仕方がない。しかし、その逆は滅多にないのではないだろうか。「キャラクターは忘れたけど、対戦相手の顔や名前は覚えている」……。

 

これは、スマブラの全87キャラのように個性的で、俺の記憶にこびりついて離れない男の小話である。

 

 

 SSBMの者

 

俺、ネバダからキマした。は誰でもフリーに誘ってしまうタチである。四国4県の代表選手たちによる「四国リーグ」の決勝の日でも、本選直前の徳島代表を気軽に誘ってしまった……という逸話がある。*5

目の前にモニターが並んでいて、プレイヤーが歩き回っているのであれば、対戦しない手はない。「目と目が合えばポケモンバトル」とはよく言ったものだ。

 

多分その男も、暇を持て余した俺が誘ったのだろう。たまたまそのとき目の前に立っていたのだろう。適当な台を選んで、席に座らせた。

初対面の相手には、まずは名を名乗るのが礼儀だ。お互いにまずはプレイヤー名を紹介して──……。

しかし、女王杯ではどういうわけか名札が準備されていなかった(てんぷらちゃんさん次回はお願いします。)ので、名前が全く聞き取れない。おそらく相手もそう思っていただろう。

そりゃそうだ。突然「ネバダからキマした。と申します」なんて長ったらしい名前を名乗る男に対し、「ネバダからキマした。さんですか~!ステキな名前ですね!」と咄嗟に飲み込める人はそういない。

 

そこで俺は、キーコン設定の画面を相手の名札として確認することにした。その男は、全く聞き取れない名前を名乗った後に、このようなキーコンを作り始めた。

 

 

絶望

 

 

ロック過ぎるだろ……。



「『絶望』っていうプレイヤー名なんですか……?」

 

俺は聞かずにはいられなかった。

 

「いや、『絶男』っていうんですけど、キーコンの漢字変換が面倒で。」

 

なるほど。ん?待てよ。

「絶の男」……。すぐさまピンときた。

 

「もしかして、DX勢ですか?」

 

その男、絶男は驚いたように、そして嬉しそうに頷く。

 

大盛況の阪神応援席の中、偶然にも二人の巨人ファンが出会った。



 

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俺はスマブラDXこと Melee が大好きだ。このゲームに関する知識量は人一倍あるだろう。観戦だって欠かさない。挑戦者の赤ヨッシーが王のシークに崖待ち卵をしたときは手を叩いて笑い、アイクラに投げ連されながらツイートをし、プリンにガン逃げされたときは蟹を投げた。for をやりながら、SP をやりながらもずっとDXも追い続けてきた。動画勢……エアプとして。

国内ではDXの魅力が伝わりきっておらず、滅多にいないDX勢。まさか、令和に生きる実物を見られる日が来るとは。それもSSQMの大会で。

 

聞くと、絶男は10年以上DX勢として闘っていると言う。ProjectM や Brawl Minus といったMOD勢ではなく、純血のDX原住民だ。

「Xが発売したとき『DX派かX派か』で揉めたでしょう?」

そんな細かすぎて伝わらない「あるある」を言い合いながら二人で笑った。

 

だから、画面に映ったSSQMの対戦内容は全く覚えていない。ただ覚えているのは、絶男が「フォックスの下Bの直後にジャンプ」をしまくって、俺が指をさして笑っていたことだけだ。

 

女王杯SSQM
第二幕、開幕。

 

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そんな和やかな雰囲気の中、さらに和みユルく盛り上がるサブイベントが始まる。SSQM、クルーバトル。

クルーバトルとは、団体戦の形式の一つ。小学校の休み時間のドッジボールのように、リーダー二人がジャンケンをして、欲しいメンバーを一人ずつ挙げていく。

俺はクルーバトルというものが初めてだった。SSQMの大会も初めてなのに。あまりの面白そうなイベントに、心がウキウキしっぱなしだった。

 

「サブイベントに参加する方は舞台の下にお集まりください~」

 

スタッフの声とともに、ずらっと人が集まる。会場にいたプレイヤーたち、一人残らず。全員参加。そりゃそうだ。

トーナメント優勝者の DoubleA くんと、準優勝の キクノ くん二人がリーダーとなって、舞台の上から一人ずつ指名していく。

 

あの二人は、俺……ネバダからキマした。のことを知ってくれているのだろうか。そして、チームの戦力に欲しいと実力を買ってくれるのだろうか。まだメンバー決めだというのに、既にワクワクとドキドキが止まらない。

最初は実力者たち、大会上位の人から選ばれていく。

 

早く呼んでくれ早く呼んでくれ──。

 

組み分け帽子を被ったハリーポッターの気分だ。ただハリーと違ったのは、俺はグリフィンドールでもスリザリンでもどちらでもよかった。

 

その祈りが通じたのか、組み分け帽子──キクノ くんが口を開く。「じゃあ、ネバダさん。」

えっ もう呼ばれるの?あまりに嬉しくて、最初は聞き間違いかとも思った。そこで確認のためにキクノくんに目線を送ってみる。すると、彼は舞台の上からしっかりと送り返してくれた。あの時から、キクノくんは俺にとってのリーダーだ。





チームDoubleAとチームキクノとが結成する。さて、それぞれ作戦会議と順番決めだ。──と、その前に

 

「チーム名、どうする?」

 

皆に聞いてみる。この「チーム名決め」は、学校でも職場でも盛り上がるテッパンの話題だ。チームの一体感も生まれる。ぜひお試しあれ。

 

すると、誰かが応える。

 

ルイージ、カズヤ、ゲムヲ……こっちには悪いキャラクターたちが集まってる」

 

 

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撮影協力 ミネイリ(ロスト) (@yukuehumei_lost) | Twitter

 

 

池袋の地下で、チーム「敵〈ヴィラン〉連合」が発足した瞬間だった。

なるほど、やっぱり俺はスリザリン側だったのか。

 

そんなチーム名となると、心なしかキクノリーダーのオシャレな服装──明るいオレンジ色のコートも、それに一味付け加えるベレー帽のようなかわいい帽子も、頭脳派悪役のリーダーのソレに見えてきた。リーダーのやわらかな話し方や雰囲気も、全部ソレだ。かっけぇ……。

またも自分の黒チノパンと白ワイシャツに目を下ろす。俺はせいぜい、モブ役ってところだろうな……

 

 

 

リーダーの隣に佇む、このいかにも悪役幹部みたいなスーツ男、まさかのプリン使い。おもろすぎる。



 敵<ヴィラン>連合、

 始動。

 

 

「先頭はネバダさんで、よろしく。」

 

メンバー選抜に次ぐ、まさかの二度にもわたる大抜擢。興奮が収まらない俺に、「ゲムヲは堅くて安定しているから」とそっとリーダーは言う。

なるほど、さすがはリーダー。癖がある変なキャラクターばかり揃うこのチームで、よく真っ先にその答えを見つけ出した。けどリーダー、一つ分かってないことがあるよ。

ゲムヲは安定していても、俺が今安定してないんだよ。

 

一度冷めたトーナメントの熱気を炙り返すように、SSQMクルーバトルが始まる。しかも今回は個人戦ではなく団体戦。会場の全員がチームの一人に声援を送る。叫ぶ。女王杯SSQMの第二幕の開幕だ。

 

 

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この舞台の上でまた戦える機会が、こんなにも早く訪れるとは。観客からの声援の煽りもあり、興奮が止まらない。しかしこの胸の高まりは、舞台にいることによる緊張ではない。むしろ逆。配信席に座っているときも、俺の心はずっと舞台の下──観戦席の中にいた。

 

SSQMが、女王杯が、イベントが。

皆でやるゲームが、楽しすぎる。

 

こんなにいい舞台を借りて、こんなに面白い、そしてこんなにくだらないゲームを皆で遊ぶ。こんなに幸せなことってあるか。

あまりの激情に見舞われた俺は、まだ「対戦モード」に切り替わっていなかった。頭がふわふわする。観戦席の皆と一緒に、試合を観るように楽しんでいた……手元でコントローラーを操作しながら。

 

観戦席の歓声・悲鳴、野次……ひとつひとつが楽しかった。心地良かった。じゃなきゃ配信台のゲムヲで撃墜アピールなんてしない。あまりに心からイベントを楽しんでいたため、遂には俺も観客の一人になってしまった。

 

 

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一方画面の中では、相手のカズヤが押され負けている。観戦席の声援は徐々にカズヤに傾きだす。そのとき、ふとどこからか声が上がった。

 

「応援されるカズヤ」…(笑)

 

確かに、異例な光景だ。会場の熱い声援が笑いに変わる。対戦してる俺までも釣られて笑い出し、つい叫んでしまった。

 

「ゲムヲも応援しろよ!!!!」

 

その魂の叫びは観客席に届くことはなかった。が、あのイベントでは、観戦席だけではなくまさかの配信席・対戦席からも野次が飛ばされていたのだ。いかに女王杯が和やかな雰囲気で、俺が心から楽しんでいたかが分かってもらえるだろう。



なんとかカズヤは倒し一人抜きはできたものの、そんな浮かれた調子だったので次のカービィにはあっさり負けた。

そのどこか地に足つかない雰囲気は、観客席にも伝わったのだろう。さすがはキクノリーダー。ベク変をサボったのがすぐにバレて、喝が飛んできた。



「リーダー、すみません!」

 

おめおめと観客席に戻り大声で謝るものの、マスクの中では口角が下がらない。

ごめんよリーダー。けれども、メンバー選びからチーム名決め、試合前からずーっと、友達の家でみんなでゲームしてる気分なんだよ。楽しすぎるよ……

 

 

 激闘、

 敵<ヴィラン>連合

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サブイベントのクルーバトルも、いよいよ終局を迎えようとする。俺が仕留めきれなかった相手の デラロイド カービィが暴れ回るが、オシャレな キスケ ジョーカーがそれを止める。ジョーカーの上Bコンボ延長撃墜が決まったときの会場の熱狂っぷりはすごかった。しかしそれもつかの間、相手の  ショコボ ソラが主人公のように連勝を勝ち取っていく。追い込まれた敵<ヴィラン>連合最後の砦、大将のキクノリーダーが次々と敵をなぎ倒していくが、立ちはだかるヒーローたちの前に倒れてしまう。長きに及んだ決闘も、これで決着か。手で顔を塞いだそのとき、遠くから力強い声が上がる……

 

「ちょっと待った──」



様々な物語が生まれた闘いだった。そのストーリーを知らない貴方は、是非今から女王杯SSQMのアーカイブを確認してほしい。

 

このイラストは、その全てを物語っている。イラスト一枚から全ての物語が伝わる、完璧なファンアートだ。

 

 

 

 

このロックマン、とてもすき。

ファンアートでスコープ状態て。




そんな笑いあり感動あり悲鳴ありの楽しいイベントだったが、さすがに最後には皆に疲れが見えていた。歓声は徐々に小さくなり、拍手はワンテンポ遅れてくる。

そんな中でも俺は興奮しっぱなしだった。自分は人より元気が有り余っているが、そんなことは今に始まったことではない。

 

俺がまだまだ燃えていた理由はそんなことじゃない。俺は、こんなところでバテるわけにはいかなかったのだ。

 

俺にはこの女王杯で、やらなきゃならないことがある。

 

 

 一年越しの想い

 

話は遡って、またあのコタツ……一年前の四国のネバダ宅。SSQMにドハマりし、正月から友人と3人でぶっ通し7時間夜を明かす。朝の訪れを知らせる雀の鳴き声と、カーテンから差し込む日光。薄明かりが射す部屋には、死んだようにコタツで横たわる友人たち。

あの日から俺は、このゲームに夢中だ。夜、家に帰ればすぐに起動した。起動するのは大乱闘スマッシュブラザーズSPでも、遊ぶのはSSQM。家にいながらしてオンラインゲームを皆で遊ぶのが主流のこの令和に、ただひたすらにCPUと戦い続ける。独り没頭し続ける。その感覚は、古き良きあの頃を呼び起こした。

 

これほどまでに夢中になった男が「世間にこの良さを広めたい」と考えるようになるのは、自然なことだろう。自らのゲーム配信、画面を直に写し出すiPhone5を通じて必死に世界に伝える。それでもSSQM熱が収まらなかった俺が手を出したのは、ブログ執筆だ。

 

 

すっげえタイトル。

 

SSQMの良さを伝えたい。ただその一心で書いた想いが、多くの読者に届いた。そして中の一人がオムナオト氏だ。

彼はこの記事を読んで、自らのSNSのアカウントで拡散してくれた。その書き込みが共感によるものなのか、それとも片手間になんとなく、呟くようにしたものなのかは分からない。それでも彼のその行動により、俺の目的が叶った。多くの人にSSQMの良さを伝えられた。

 

俺のブログを読んでくれている方々には、全員心から感謝している。オフ対戦会で面と向かって「ブログ読んだよ」「面白かったよ」と伝えてもらえるたびに、感激と涙が込みあがってくる。そう言ってくれた人たち、そのときの彼らの声や表情は、数年経った今、遠く離れた地の東京でも昨日のことのように思い出せる。聞こえてくる。

 

だからこそ、読んでくれた全員にお礼を言わなければいけない。しかし、まだオムナオトくんにはできていない。今日俺が池袋まで来たのは、それを果たすためでもあった。



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敵<ヴィラン>連合の刺客も破れ、サブイベントに決着がついた。また DoubleAじゃねえか!強い。

 

最後に実況解説の二人から、そしてソラの桜井政博を名乗る人物からの挨拶があり、温かい、熱い拍手とともに第二回女王杯SSQMの幕が閉じた。

 

 

……

 

そのとき、舞台を見上げながら静かに手を叩く俺は、ふとオムナオトくんのほうに目を向ける。あのときのお礼、絶対に伝えなきゃ……。

 

しかし、さすがの彼も疲れ切っているように見えた。仕方のないことだろう。朝から会場に来て、会場開設やイベントの進行を手伝い、大会が始まれば開幕から結末まで実況解説として喋り続けイベントを盛り上げる。対して俺は、女王の首を獲ると謳いながら、ただ自分のためだけに闘いに来ただけ。彼と俺では、背負っているものがあまりに違う。

 

終わりの挨拶を終え、配信が終了する。オムナオトくんは分かりやすく疲れたように、そそくさと実況解説席を後にする。

その様子を見れば、誰だって思い止め、諦めをつかされてしまうだろう。誰にでも話しかけてしまう俺でも、さすがにあの状態の男には声をかけることなどできない。

 

ステージの階段を降り、うつむきながらこちらに向かって歩むオムナオトくん。

周りに引っ張られるように俺もその場を離れようとする。行くところなどありもしないが。

 

はあ、俺はここで声をかけなかったことを後悔するんだろうな。

でもまあ、お礼はいつでも伝えられる。何も今日じゃなくたって良いんだ。

またの機会に、彼が元気なときにでも──

 

放心するように、舞台のどこかを見上げていた。

そのときに口を開いたのは、俺の前で立ち止まったオムナオトくんだった。



「僕のセフィロスとやってもらえませんか。」



驚きのあまり、目を見開いた。

雷に打たれたようだった。

 

彼は、そそくさと舞台を降りたんじゃない。まっすぐ俺のところに向かって来ていたのだ。

 

ネバダさんですか?」そんなありがちな挨拶も、自己紹介もない。あまりに予想外で、突飛な第一声。全てを飛ばして、真っ直ぐ勝負の申し入れ。

それでも俺には充分だった。

すぐに感謝の言葉を伝えた。伝えることができた。驚きこみ上げる感情を抑えながらも、必死に。

 

それを受けた彼は、笑顔を見せてくれた。しかし、会場の熱に飲まれてなのか、俺たちは感謝の言葉も雑談もよそに、すぐさまキャラクターを選びだす。多くは語らず、静かに、吸い込まれるように試合を始めた。お互い、この時を待っていたかのように。

 

どうして彼は俺に声をかけてくれたのだろう。

 

俺の試合を見ていてくれたのか、それともあの記事を思い出してくれてなのか、はたまた、珍しいゲムヲというキャラクターとただ対戦したかっただけなのか……。

 

その理由は、今でも分かりやしない。

それはわからないけれども、これだけは分かる。俺だってスマブラで闘っていた身だ。

 

 

 

自分のメインキャラクターを掲げて、人に勝負を挑むとき。

それは自らのプライドを賭けてまで、本気で勝ちに行くときだ。

 

 

 

この勝負、絶対に負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 決闘、

 オムナオトセフィロス

 

 

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セフィロスは、SSQMでも根強い人気のあるキャラクターだ。無法の空N指パッチン、それを連発するシュールな一面を持ちながらも、正宗──あの特大の刀を振り回すオシャレさ、拭えない格好良さ……。

 

SPでセフィロスが発表されたとき、FF7ファンの友人がふと漏らしていた言葉を思い出す。「これはセフィロスじゃない」。あの圧倒的な帝王セフィロスが、正宗を重々しそうに、のそのそと扱うのがどうしても受け入れられなかったのだろう。

その枷が全て外れたのがSSQMのセフィロスだ。着地硬直が大幅に減ったことにより、あの長刀を軽やかに素早く振り回す。シークの空前・鉈の速さで正宗を突き付けてくるその様は、まさに圧倒的だ。

 

「SSQMって、どうしても近接戦が多くて強いじゃないですか。」

 

フリーで、カズヤ使いのダイヤル君がちょうどこの話をしていた。

 

「そんな中セフィロスは、あの長い刀で相手との間合いを見計りつつ、制圧しながら戦う。そんな『アンチSSQM』な所がカッコいいんです。」

 

ソラをSSQMの王道で戦う主人公とするなら、セフィロスはその対極、SSQMの悪役ってところだ。

 

「ゲムヲは対剣キャラが絶望的」。SPの定石だが、ここはSSQM。QMバフのかかるこのゲームでは、剣キャラ相手にも強気に戦える。

が、帝王セフィロスの前ではそんな希望も打ち砕かれる。他の剣士とは比べ物にならない、正宗が放つ圧倒的なリーチの前に、ゲムヲはただたじろぐことしかできない。

 

なるほど、これが俺の女王杯のラスボスか。セフィロスのリーチに圧倒されながらも、時折漏らす操作の癖・反応的な行動を狩りながら張り合っていく。手に汗握りながらも、なんとか一戦目を獲ることができた。



一本先行できた。あまり実感の湧かないまま、二戦目に突入する。

実感が湧かないのも当然だった。



 

なんだ、この幸せな状況──?

 

 

 

あれほど憧れたSSQMの大会に出られた。そこで話せもしないと思っていたオムナオトくんに声を掛けられて、あっという間に今、隣に座って対戦している。それでいて、一本先取までしたときた。

 

目まぐるしい。「頭の整理が追い付かない」という状況は、生涯でそうあるものではない。

 

考え事が多すぎる。あまりに幸せな邪念だ。試合への集中力が徐々に途切れ始め、最後はもう「こいつに絶対に勝つ」という執念だけで動いていた。

 

けれども、対戦相手は執念だけで倒せる男ではない。ようやく邪念が消え散り、全意識が画面に吸い戻る。しかしその時にはもう、手遅れだった。

 

 

 

気がついたときには、俺のゲムヲは長刀の串刺しにされていた。

 

 

 

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「この決着は、また次回に──。」

 

燃えたぎるセフィロスの勝利画面を背に、静かにそう告げるオムナオトくん。

 

周囲の撤収ムードと共に、勝負の炎も消えていく。

徐々に頭の整理も追いつき、ようやく状況を飲み込めた。

 

そうか。結局俺は、女王の首も、セフィロス──帝王の首すら獲り損ねたのか。



考えてみれば俺は今日、リザルト上位半分の強者たちと戦ってすらいない。格闘Miiの昇天スピンキックで俺のあの頃を呼び起こしてくれた DoubleAくん、リーダーとして俺を引っ張ってくれた、ゼロサムで悪党のような空下コンボを繰り出すキクノくん、あのダイヤルカズヤを叩きのめしたという魔のルイージ使いかるぴすくん……

 

永遠に感じられた俺の女王狩りの夜。しかし、まだ何も終わっていないのだ。

いいだろう。この決着はまた次回──




いい夢見ろよ……





P.S. DLC買っちゃいました〜!

 

 

 

*1:「プラットフォームファイター」とは、格闘ゲームサブジャンル。格闘ゲームの中でも、ステージ上を2次元的に動き回るものを指す。国内では耳にしない単語だが、英語圏ではゲームジャンルの一つとして確立している。 Platform fighter - Wikipedia

*2:https://rivalsofaether.com/jp/

*3:厳密に言うならば「ベクトルが低くなっている」というのは誤りであるが、界隈では便宜上このような表記にしている。スピリッツやキャラクターの重さで技のベクトルが変わることはないが、正規のベクトルでふっとびが終わった直後にすぐに落下が始まるため「クイッ」と曲がるように斜め下に落ちていく。

*4:「SSQM」という命名は「SSBM」”Super Smash Bros. Melee” 、すなわちスマブラDXから由来している。スピリットを駆使して、スマブラDX/Melee のようなスピード感を再現しよう、というコンセプトであるため。しかし DX勢から言わせれば、はっきり言って全くの別物だろう。似ても似つかない。しかしロックマンのこの無限上昇テクニックに限って言えば、どことなくDXのバグ・テクニックくさい。SSQMの一番”SSBM”な部分は、ロックマンの無限上昇発見のような荒くれたキャラクター研究や、それに伴うメタの発展の仕方にあるかもしれない。

*5:あれが俺とあしも君の初対面だ。