全人類ギャル化計画
助けてほしい。俺は今映画のような世界にいる。街中にゾンビがうろついている世紀末だとか、宇宙人が攻めてきたとか…
とにかくそっちの世界からすればそんな非日常の世界だ。
俺が住んでいる世界について話す。異なる世界線との交信は赦されないので、消される前に記憶に留めておいてほしい。
この世はギャルが支配した。
どぎつい化粧……メイクに、これでもかという厚底。
00年代にギャルという生態が原宿・渋谷を中心に支配を始めたのを覚えているだろうか。その後もギャルは繁殖をし続け社会現象とまでなった。彼女らはマルキューという巣窟を持ち、独自の言語を使い外部への情報漏洩を根本から遮断した。
しかし、ギャルは10年代に入る頃にはすっかり姿を消していた。
原宿にはサブカル系という次の生態が棲み始め、時代はagehaという紙媒体から電子媒体ヒウィッヒヒーへと変化していった。
こうしてギャルは絶滅した。
ここまでは君たちの世界線と一緒だ。
ここから世界線が分かれていく。
ギャルは今日も駅にいる。
ある日のことだ。俺は普通の一日を迎えようとしていた。
いつもの目覚まし時計に起こされ、普通のニュース番組を見ながら、いつもの菓子パンを咥えながら家を出た。
いつもの駅へと向かい、いつもの時刻通りにやってきた電車に乗ろうとしたとき、事は起きた。
それマジムカつく〜!
驚きのあまり振り返った。俺は列の後ろから押されるように電車に入っていったが、開いた目と口は塞がらない。
あの言葉を発していたのはごく普通の高校生だったのだ。ガングロでも原宿系でもない、一般的に想像される普通の高校生。それも驚くことに男子だ。
平成も終わり新年号も発表されたという今日に、男子高校生たちがギャルのような言葉を使う。わけもわからないまま、俺は田園都市線の波に揺られる。
この世はギャルばかり。
ようやく退勤。今日のプロジェクトは完璧だった。大成功とはいえ仕事に疲れきった俺は、朝見た光景など忘れ、帰りの電車を待った。
しかし、またこの世界の現実が襲いかかる。
マジ?ヤバいな〜ウケる〜!
嘘だ。
恐る恐る見ると、30は超えているであろう大人たちが腹を抱えて笑っている。
俺は怖くなって、ただただ猛烈に走り出してしまった。どこへ向かうわけでもない。ただただ、ただただ。
その後の俺の記憶はない。
気が付いたときには、またいつもの目覚まし時計が鳴っていた。
ギャルは今でも「魂」として生き続けている。
今日も多くの日本人がギャルのような話し方を止めない。
性別、年齢、世代など関係ないようなものだ。
ギャルは姿こそ消したが、日本語とAVのジャンルに今も根強く残り続けている。
そちらの世界では、大人は大人の言葉を使っている世界であってほしい。
こっちはマジでヤバい。
スマブラとは、人生である。
スマブラとは人生である。むしろ、その逆かもしれない。
人生とは、スマブラである。
俺は大学を中退してからずっとスマブラをしている。
夢も目標もなく、実家の部屋の天井を眺めていたあの頃から、毎日やりたいことばかりで手帳を開き予定を見つめる今日まで。ずっと。
今日、多くの人はモラトリアムを学業に費やすが、俺は少しの仕事とスマブラだった。
スマブラは奥が深い。
スマブラと聞くと多くの人が「ワイワイパーティゲーム」といったイメージを持つだろう。もちろんそういった面もある。しかし、スマブラはそれほど単純であるが故に実は奥深い。
将棋やチェスと一緒だ。
一つ一つの駒の動きが簡素で、ルールと勝利条件は明快である。となると、勝敗はテクニックなどといった小手先の話だけではなく、プレイヤーの頭脳で決まる。
海外のプロゲーマーが格闘ゲームについてこう語っている。
「格闘ゲームは高速でチェスをし続けるようなものだ。相手の動きを予測し、それに対する正しい答えを瞬時に返す。」
(内容うろ覚えの超意訳)
単純であることと奥深いことは、紙一重なのかもしれない。
人生も、
奥深いが単純である。
子供の頃はあまりなかったが、大人になるとよく耳にするだろう。世間は甘くないだとか、人生は甘くないだとか。
確かに甘くはないが、だからといって複雑なわけではない。
人は人生を難しく考えようとしてしまう。
なぜ挨拶をするのか?されたら嬉しいから。
なぜお礼をするのか?されたら嬉しいから。
これ以上の理由などない。どんな年齢国籍人種の人が、どんなに難しい漢字や横文字を並べようと、結局はここに行き着く。
人生の多くの事柄は、実は簡潔に説明ができてしまう。しかしながら、奥が深い。
スマブラも人生も、奥深いが難しく考える必要はないのだ。
スマブラのゲームプレイから学ぶこと
スマブラを深めてプレイしていくと、単純ながらすごく大事な「心得」を見つける。
その心得は日常生活にも応用でき、考えさせられるものばかり。
①認知・操作・判断
自動車免許をお持ちの方は上の図をどこかで見たことがないだろうか。
自動車学校の教本の一番最初に載っている「運転の三要素」だ。
- 運転中、目を使い目の前で起きていることを「認知」
- 認知した情報を元にブレーキを踏むか避けるか等「判断」
- その判断を元に身体を動かし車を「操作」する。
運転が上手い人はこの三つに長けている。
しかし、なにも車の運転だけではない。人生の運転もスマブラも、全ての事象においてこの三要素は使われる。
- 相手の出す技・動きを「認知」
- どういう技で返すか、攻めるか守るか保留するか「判断」
- 正しい操作を指に伝えてコントローラーを「操作」する。
技を一つ出すのにもこのようなステップが踏まれる。
- 人生
- 相手の言動を五感で「認知」
- どういういった背景・意図でその言動をされたのか「判断」
- 適切な言葉や反応を返すよう、第三者視点から自分を見ながら「操作」する。
車の運転も人生の運転もスマブラも、認知判断操作で質が決まる。
②相手の考えを読む
スマブラでは相手の動きを認知することが大事だが、人間の五感ではスマブラのゲームスピードに間に合わない。
相手が攻撃をし始めたのを見てからガードしようとしても遅い。攻撃は当たってしまう。
ではどうするか。上手いプレイヤーは「相手の立場に立つ」。
相手の考えていることを常に予測しながら操作している。
- 自分のダメージが100%超えた。そろそろ撃墜されてしまうだろう。
- 相手は撃墜したいが故に、スマッシュ攻撃など大技を振ってくるだろう。
- では、自分は守りの体制に。シールドを多めに立ち回っていこう。
…と、いったように。
大人がよく言うでしょう。「相手の立場に立って考えなさい」と。
スマブラでそれができるようになってから、人間関係でもできるようになった。
③間合いが重要
どんなに相手の動きが読めても、相手の攻撃に当たってしまうことがある。
そこで考えるのが「間合い」だ。
剣道や柔道をされた方は熟知した言葉だろう。普段は相手の攻撃に当たらない距離を保つ。攻めるときは自分の攻撃の届く距離を保つ。
スマブラは間合い管理が常に求められる。ハイスピードでキャラクターたちが走り回り跳び回り飛び回るゲームだからだ。
自分が行けそうなら強気に押して、ときに慎重に相手との距離を保つ。人間関係の肝と言っていい。
「自分にとっての」
スマッシュボール
人生はスマブラであると唱える人物が他にもいる。インパルス・板倉氏だ。
彼は新作発売前に行われたスマブラのイベントにロバート・山本氏と共演した。
二人はスマブラで対戦をしてみせるが、その中でこんな一幕があった。
試合中にアイテム「スマッシュボール」が現れた。これはスマブラを象徴するようなアイテム。ステージ中を飛び逃げ回るスマッシュボールを攻撃して割ると、「最後の切り札」という強力な必殺技が使えるようになる。
しかし山本氏が、スマッシュボールを割るのに夢中になるがあまり自滅してしまう。そして試合が決する。
それを見た板倉氏がこう言った。
スマッシュボールに目が眩んで、一番大切なものに目が向かなくなる。人間ってのはそういうもんだ。「じゃあ結局何が一番大切なんですか?」ってメッセージが入ってるのよ。(ロバート・山本)博にとってのスマッシュボールって何?って話。人それぞれあるわけよ。
皆に考えてほしい。「自分にとってのスマッシュボール」ってなんだったっけ、って。東京に出てくる前の「思ってたスマッシュボール」ってこんな形だったっけ、って。
スマブラ初プレイでこの言葉を発せる板倉氏には感服する。会場は苦笑いだったが、板倉氏の世界観が表れた考えさせられる言葉だと思う。
人生はゲームだ。
人生はゲームだ。そういう言葉をどこかで聞いたことがある。
俺もそう考えている。しかしこのゲームにはニューゲームもリセット機能もない。だからこそ、判断ミスや操作ミスのないよう楽しみたい。
ただ、ピチューの横強に怯えながら逃げ回ったり、シークが復帰阻止に考えられないような跳魚で跳んでこないぶん、人生のほうが幾分簡単なのかもしれない。